ニュースを見ていると、
「高級腕時計など時価500万円相当が盗まれました」
「店から商品販売価格10万円相当を盗んだ疑い」
といった表現を目にすることがあります。
ここで気になるのが、
「窃盗の被害額って定価なの?それとも時価なの?」
という疑問です。
たとえば10年前に100万円で買った時計が現在50万円の価値しかなければ、被害額は100万円なのでしょうか。それとも50万円なのでしょうか。
結論からいうと、窃盗事件でいう「被害額」は、必ずしも新品の定価や購入時の金額と同じではありません。
一般に盗まれた物の財産的価値を考える際には、**犯行時点・場所などにおける客観的な交換価値(時価)**が重要になります。
ただし、ニュースで報じられる「○万円相当」は、警察発表や被害届などをもとにした表現であり、必ず裁判で最終的に認定される金額と一致するとは限りません。
この記事では、窃盗の被害額は定価なのか時価なのか、購入価格・販売価格との違い、中古品やプレミア品はどう計算されるのかを初心者向けにわかりやすく解説します。
窃盗の被害額は「定価」と「時価」どっち?
まず結論を整理しましょう。
| 金額 | 意味 | 窃盗の被害額との関係 |
|---|---|---|
| 定価 | メーカーなどが設定した価格 | 必ずそのまま被害額になるわけではない |
| 販売価格 | 実際に店頭などで売られている価格 | 店の商品では参考になる |
| 購入価格 | 被害者が実際に購入した金額 | 財産価値を判断する材料の一つ |
| 時価 | 盗まれた時点などでの客観的な価値 | 重要な基準となる |
| 被害申告額 | 被害者が届け出た金額 | 報道で使われる場合がある |
つまり、
「買ったときに100万円だったから被害額も必ず100万円」ではない
ということです。
時間が経って価値が下がる物もあれば、反対にプレミアが付いて購入時より価値が上がる物もあります。
そもそも窃盗罪とは?
窃盗罪は、刑法235条に定められています。
簡単にいうと、他人の財物を盗む犯罪です。
たとえば、
- 店の商品を万引きする
- 他人の財布を盗む
- 自転車を盗む
- 高級腕時計を盗む
- 自動車を盗む
などが典型的なケースです。
ここで重要なのは、窃盗罪が成立するかどうかと、盗まれた物が「何万円だったのか」という問題は分けて考える必要があることです。
「安い物なら盗んでも窃盗にならない」というわけではありません。
窃盗の「被害額」とは何?
ニュースでいう窃盗の被害額は、一般的には盗まれた財物の価値を金額で表したものです。
たとえば、
「住宅から現金30万円と腕時計など時価200万円相当が盗まれた」
というニュースなら、
現金30万円
と
腕時計などの財産的価値200万円相当
という意味になります。
現金なら金額がそのまま分かるため簡単です。
難しいのは、
時計
宝石
自動車
ブランドバッグ
美術品
など「物」が盗まれた場合です。
そこで重要になるのが時価です。
時価とは「今ならいくらの価値があるか」
時価をかなり簡単に説明すると、
その物を盗まれた時点・場所などで、客観的にどれくらいの交換価値があるか
という考え方です。
たとえば5年前に20万円で購入したバッグがあるとします。
現在、同程度の中古品が市場で10万円前後で取引されているなら、
購入価格20万円=現在の価値20万円
とは限りません。
使用年数や状態、市場価格などによって現在の価値が変わるからです。
「定価」と「時価」は何が違う?
ここが今回のキーワードで一番重要なところです。
定価
商品を販売する際に設定された価格です。
たとえばメーカー希望価格が、
100,000円
だったとします。
これが定価に相当する金額です。
時価
一方の時価は、その商品が現在どれくらいの価値を持っているかという考え方。
発売から10年たって中古市場で、
30,000円程度
で取引されているなら、定価と現在の時価には大きな差が生まれます。
つまり、
定価10万円
だからといって、
盗まれたら必ず被害額10万円
とは限らないのです。
10年前に100万円で買った時計を盗まれたら?
具体例で考えてみましょう。
10年前に100万円で購入した高級時計が盗まれました。
この場合、
「100万円払ったんだから被害額は100万円でしょ?」
と思うかもしれません。
しかし現在の市場価値が60万円程度なら、財産的価値を評価するときには現在の価値が重要な判断材料になります。
反対に、購入当時100万円だった時計が現在人気になり、中古市場で200万円程度で取引されていたらどうでしょう。
この場合は、
購入価格100万円<現在の市場価値200万円
ということになります。
つまり、購入価格だけでは現在の価値は分からないのです。
プレミアが付いた商品は定価以上になる?
可能性があります。
分かりやすいのが、
限定スニーカー
トレーディングカード
限定フィギュア
希少なウイスキー
生産終了した腕時計
などです。
たとえば発売時の価格が1万円でも、現在の中古市場で10万円前後で取引されている商品があります。
この場合、
定価1万円だから価値も1万円
とは単純にいえません。
客観的な市場価値を評価するのであれば、現在の取引状況などが重要になってきます。
逆に値下がりした中古品は?
もちろん逆もあります。
たとえば新品価格20万円のパソコンを5年間使用していたとします。
盗まれたからといって、
「新品が20万円だから被害額20万円」
と単純に判断できるとは限りません。
パソコンは一般に時間の経過によって市場価値が低下します。
同じモデル・同程度の状態の中古品が3万円程度で取引されているなら、それも価値を考えるうえでの重要な材料になります。
お店の商品が万引きされた場合は?
では、コンビニやスーパーの商品はどうでしょうか。
たとえば販売価格1,000円の商品が万引きされたとします。
新品の商品で、まさに店頭で1,000円で販売されていたのであれば、その販売価格は商品の価値を把握する非常に分かりやすい材料になります。
そのため万引き事件の報道では、
「販売価格○○円の商品を盗んだ疑い」
といった表現もよく使われます。
ここで、
「店は500円で仕入れているのだから被害額は500円では?」
と思う人もいるかもしれません。
しかし、仕入れ値と商品の販売上の価値は同じものではありません。
仕入れ値が被害額になるわけではない?
たとえば、
仕入れ価格500円
販売価格1,000円
の商品があったとします。
店側が実際に商品を仕入れるために払ったのは500円です。
しかし、その商品は店頭では1,000円の商品として販売されています。
そのため窃盗された商品の価値を考えるとき、
「店の原価はいくらだったか」
だけで判断するわけではありません。
ニュースでも小売店の万引き事件では「販売価格○円相当」と報じられることがあります。
セール品なら定価?セール価格?
これも気になりますよね。
たとえば、
定価10,000円
の商品が、
セール価格5,000円
で販売されていたとします。
この商品が盗まれた場合、
「定価1万円だから1万円の被害?」
と単純にはいえません。
実際にその時点で5,000円で販売されていた事実は、商品の価値を考える重要な材料になります。
つまり、「定価」という数字だけで機械的に決まるわけではないのです。
メルカリなどの中古相場も関係する?
中古品や希少品では、実際の中古市場における取引価格が価値を判断する材料になることがあります。
現在では、
中古販売店
オークション
フリマサービス
などで、多くの商品について市場価格を確認できます。
ただし注意したいのが、出品価格=時価とは限らないことです。
たとえば誰かが、
「このカードを100万円で売ります!」
と出品していても、実際には誰も100万円で買っていないかもしれません。
価値を考えるうえでは、単なる希望価格よりも、実際の取引状況や専門業者の査定などのほうが参考になる場合があります。
ブランドバッグの被害額はどう考える?
ブランドバッグも定価と中古価格が大きく違いやすい商品です。
たとえば新品で50万円だったバッグでも、
使用年数
傷や汚れ
モデル
人気
付属品の有無
などで価値が変わります。
反対に廃番モデルや人気モデルなら、中古でも購入時より高くなる可能性があります。
そのため、
「ブランドバッグ=新品定価で計算」
とは限りません。
自動車やバイクの場合は?
車やバイクも時価をイメージしやすいでしょう。
10年前に300万円で買った車が盗まれたとしても、現在の価値が購入当時と同じとは限りません。
中古車には市場価格があるため、
車種
年式
走行距離
グレード
車両状態
などによって価値が変わります。
一方、希少な旧車などでは、新車当時より高値で取引されるケースもあります。
宝石や貴金属はどうなる?
宝石・貴金属も評価が難しいものの一つです。
たとえば100万円で購入した指輪でも、
ブランド
宝石の種類・品質
地金の価格
中古市場
などによって現在の価値は変わります。
金やプラチナのように相場そのものが動くものもあります。
そのため、購入時の領収書だけでなく、
鑑定書
鑑別書
購入証明書
商品の写真
などが盗難後の品物特定や価値を説明する資料として役立つことがあります。
美術品はどうやって金額を決める?
さらに難しいのが絵画や骨董品です。
スーパーの商品なら販売価格がありますが、美術品には明確な定価がないこともあります。
そこで、
過去の売買価格
オークション価格
作家の市場評価
専門家による評価
などをもとに価値が検討されることがあります。
ニュースで、
「絵画など時価数千万円相当」
と報道されるのは、このように価値を推定しているためです。
被害者が「100万円です」と言えば100万円になる?
必ずしもそうではありません。
被害者が、
「この時計は100万円で買いました」
「このバッグは50万円しました」
と説明することは、もちろん重要な情報です。
しかし、
被害者の申告額=客観的な時価
とは限りません。
購入した時期や現在の市場価格などによって価値は変わります。
また、捜査段階で把握された金額と、後の裁判などで評価される金額が異なる可能性もあります。
ニュースの「時価○万円相当」は誰が決める?
ニュースでよく聞く、
「時価約100万円相当」
という表現。
報道機関が独自に商品を査定しているとは限りません。
多くの場合、警察発表や捜査関係者への取材など、報道機関が得た捜査段階の情報をもとに記事が作られます。
警察側では、
被害者の申告
購入価格
販売価格
中古市場の価格
専門業者による査定
など、事件ごとに確認できる資料をもとに被害品の価値を把握していくことになります。
そのためニュースの「○万円相当」は、
裁判所が最終確定した金額
とは限らない点に注意しましょう。
「現金○万円と○万円相当の品」の違い
ニュースでは、
「現金50万円と腕時計など時価300万円相当が盗まれた」
という表現があります。
なぜ現金には「時価」と付かないのでしょうか。
理由はシンプルです。
50万円の現金なら基本的に、
50万円=50万円
だからです。
一方、腕時計などの「物」は市場価値を評価する必要があります。
そのため、
現金→○万円
物品→時価○万円相当
という表現になるわけです。
被害額が大きいほど窃盗罪の刑罰も重くなる?
窃盗罪について刑法235条では、法定刑が定められています。
ただし実際の処分や量刑は、単純に、
「10万円盗んだから○年」
「100万円なら○年」
といった計算式で決まるわけではありません。
事件の内容に応じて、
被害額
犯行態様
被害回復の有無
被害者との示談
前科・前歴
常習性
犯行に至った事情
など、さまざまな事情が考慮されます。
そのため「被害額だけで刑罰が決まる」と考えるのは正確ではありません。
盗まれた物が返ってきたら被害額はゼロ?
ここも誤解されやすいところです。
盗まれた商品が後から返還されたとしても、
「返したから窃盗そのものがなかったことになる」
わけではありません。
一度窃盗罪が成立した後に品物が返還された場合、返還や被害回復はその後の処分・量刑などを考える事情になり得ますが、犯罪成立とは別の問題です。
また、返ってきた品物が壊れている場合などには、別途損害の問題も生じます。
民事の損害賠償額と「ニュースの被害額」は同じ?
必ずしも同じではありません。
ここは重要です。
ニュースで、
「被害額100万円」
と報じられたからといって、
被害者が民事で必ず100万円請求できる
という意味ではありません。
民事上の損害賠償では、実際にどのような損害が発生したのかを具体的に検討する必要があります。
つまり、
刑事事件で報じられる被害額
と
民事上の損害賠償額
は、同じ数字になる場合もありますが、必ず一致するものではありません。
保険の「時価額」とも同じとは限らない
さらに注意したいのが保険です。
火災保険や自動車保険などでも、
時価額
という言葉が使われます。
しかし、保険契約にはそれぞれ独自の約款や評価方法があります。
そのため、
ニュースでいう時価
刑事事件で評価される財物の価値
保険会社が算出する時価額
が必ず同じになるとは限りません。
同じ「時価」という言葉でも、使われる場面によって考え方が異なることがあります。
窃盗の被害額を具体例で比較
最後に分かりやすく整理してみましょう。
ケース① 新品の商品
定価:10万円
店頭販売価格:8万円
実際に8万円で販売中
→定価10万円だけでなく、実際の販売価格などが価値を考える重要な材料になります。
ケース② 10年前のバッグ
購入価格:30万円
現在の中古市場:5万円程度
→購入価格30万円が、そのまま現在の時価になるとは限りません。
ケース③ プレミア時計
購入価格:100万円
現在の中古市場:200万円程度
→購入価格より現在の価値が高くなっている可能性があります。
ケース④ 現金
盗まれた現金:20万円
→基本的にはそのまま20万円です。
この違いを知っておくと、ニュースの「時価○万円相当」がかなり理解しやすくなります。
窃盗の被害額についてよくある質問
Q. 窃盗の被害額は定価で決まる?
必ずしも定価ではありません。盗まれた時点などでの客観的な価値(時価)が重要になります。新品の店頭商品なら実際の販売価格が重要な材料になります。
Q. 買ったときの値段が被害額になる?
購入価格は参考になりますが、必ず一致するとは限りません。購入後に値下がりしている場合も、逆にプレミアが付いている場合もあります。
Q. 中古品はどうする?
同程度の商品の中古市場価格、状態、使用年数などが価値を考える材料になります。
Q. メルカリの出品価格が時価になる?
出品価格だけで客観的な価値が決まるわけではありません。実際の成約価格や中古市場、専門業者の査定なども重要になります。
Q. 店の商品は仕入れ値で計算する?
仕入れ値だけで決まるわけではありません。実際の店頭販売価格なども重要な判断材料です。
Q. ニュースの「時価100万円相当」は確定した金額?
必ずしも裁判で確定した金額ではありません。報道時点で警察などが把握している被害情報をもとに報じられているケースがあります。
Q. 盗んだ物を返せば被害額はゼロになる?
返還しても、すでに成立した窃盗罪が自動的になくなるわけではありません。ただし被害回復は、その後の処分などで考慮される事情になり得ます。
まとめ|窃盗の被害額は「定価」ではなく時価が重要
窃盗事件のニュースで出てくる「○万円相当」は、単純に商品の定価を足しただけとは限りません。
ポイントをまとめると、
定価
→商品に設定された価格
購入価格
→被害者が実際に購入した価格
販売価格
→店頭などで実際に販売されている価格
時価
→盗まれた時点・場所などにおける客観的な交換価値
と考えると分かりやすいでしょう。
そのため、
10年前に100万円で買った時計だから被害額100万円
とも、
定価1万円の商品だから絶対1万円
とも単純にはいえません。
中古品なら現在の中古市場、プレミア商品なら実際の取引相場、新品の商品なら店頭販売価格など、その物が盗まれた時点でどれほどの財産的価値を持っていたのかが重要になります。
また、ニュースで報じられる「時価○万円相当」は、報道時点で警察などが把握している情報をもとにした金額で、後の裁判で認定される金額や民事上の損害賠償額と必ず一致するわけではありません。
ニュースで「高級腕時計など時価500万円相当が盗まれました」と聞いたときは、
「買ったとき500万円だった」という意味ではなく、「盗まれた物にはその程度の価値があると評価・把握されている」
と考えると理解しやすいでしょう。


